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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)129号 判決 1948年6月12日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人加藤謹治提出の上告趣意書は「原審の刑は左記の事情を考慮すれば重きに失するものと思はれる

第一、被告人は他の共犯者等が被害弁償を全然しなかつたに不拘被害者A株式会社美合工場に対して壱

万七千円也を又被害者Bに対しては被害見積価格の大半を一人で弁償したこと第二、被告人は犯罪により

何等利得を得て居らず情状に於て他の共犯者より軽いこと第三、被告人は第一審迄家名を傷けることを怖

れて否認したが第二審に於ては素直に自白し改俊の情極めて顕著であること第四、被告人は保釈後四ケ月

半真面目にメリヤメ製造業に従事し再犯の虞のないこと第五、被告人は犯行当初迄何一つ刑事処分を受け

るやうな不良性もなく本件犯行は全く友人より唆かされて加担したものであること第六、被告人には老母妻長

男の三人あり被告人が服役すれば家族の生活が破碇に陥ること」というのであるが、このような上告理由は

日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十三条第二項により適法な上告理由と

いえないのであるから、論旨は理由がない。

弁護人平野安兵衛の本件上告趣意書は提出期間の末日である昭和二十三年三月三十日上告趣意書を

当裁判所に提出したのであるが、その弁護届は右期間経過後の四月二日提出せられたのであるから、右の

上告趣意書は弁護人でないものが提出したこととなり適法な上告趣意書と認めることはできない。けだし、刑

事訴訟法第四百二十三条が最初に定めた公判期日の十五日前迄に上告趣意書を上告裁判所に提出すべ

き旨を規定しているのは、上告裁判所は職権を以て調査すべき事項の外は上告趣意書に包含せられている

事項に限り調査すべきもの(同法第四百三十四条)で、公判期日迄に、或は部員をしてそれについての報告

書を作成せしめ(同法第四百二十九条)或はこれを作成させないにしても裁判所自身として上告理由の当否

について調査研究を遂げる必要があるばかりでなく、上告の対手人に対し速にその謄本を送達し(同法第四

百二十六条)対手人はこれを受取つた日より十日以内に答弁書を提出することができる(同法第四百二十八

条)等、これを基本として公判期日迄に順を追うて進めなければならないいろいろな手続があるからであつ

て、仮に上告趣意書提出期間経過後最初に定めた公判期日迄に弁護届が提出されたとしてもそれから上述

の手続を進めたのでは、十分にその目的を達することができないのであるから、この上告趣意書提出期間は

厳に遵守されなければならぬ。従つて期間後の弁護届の提出によつて、遡つて、前の上告趣意書を有効と

することは許されないのである。尤も同弁護人は原審における被告人の弁護人であつて、本件では、原審弁

護人の資格において被告人とは別に上告の申立をしているのであるが、刑事訴訟法第三百七十九条が原

審における弁護人に上告申立の権限を認めたのは、被告人の利益を保護するために特にそれだけを許容し

た趣旨であつて、上訴審において被告人のために弁論をしたり、上告趣意書を提出する等上訴審における

訴訟行為をする権限まで認めたものとは解することができないから、同弁護人の上告趣意書を上告申立人

の提出した上告趣意書として有効なものと取扱うこともまた、許されないのである、要するに、弁護人平野安

平衛の上告趣意書は、上告趣意書としての効力がないのであるから、これに対しては当裁判所は説明をあ

たえない。以上の次第であるから刑事訴訟法第四百四十六条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

検察官 柳川真文関与

昭和二十三年六月十二日

最高裁判所第二小法廷

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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